HOME >> 芝生の情報館 >> 我が家の芝生をご紹介します >> 愛知県犬山市M氏が自ら語る我が家のベントグリーン管理法
私は、芝生という植物に魅せられて6年になる39歳の歯科医です。西洋シバの管理は2年足らずの経験しかなく、いろいろ講釈を言えるだけの経験も知識もありません。実はペンクロスのパッティンググリーンを造成する前は、コウライグリーンでした。しかし、エバーグリーンに憧れて(皆さんもそうですよねー)・・・・・・。太陽光に反射して浮かび上がる緑のなんと美しいこと。いやいや、月の光や庭園灯でうつしだされた姿も実にすばらしい。至福の時ですよねー。でも、この夏、不幸な事態にあわれた方も多いのではないでしょうか?では、この場を借りて2回の夏越しを成功させた私なりの秘訣(秘訣といえるかどうか?)、管理の苦労?についてお話させていただきます。
犬山市は名古屋の北部20キロに位置し、夏は高温多湿で、都市部より気温が高いぐらいで、西洋シバにとっては劣悪な環境です。しかし、自宅から車で10分ぐらいのゴルフ場では、夏でもすばらしい状態でペンクロスやG-2※注のグリーンを管理しています。そうです。やってやれないことはないのです。フツフツと闘争心が沸いてくるではありませんか。ゴルフ場の管理を参考に!(自宅の庭でどれだけできることやら・・・・不安だらけのスタート)
当社注)ペンクロス、G-2というのはベントグラスの品種名です。
1. 床土について
私の床土の構成は山砂+川砂+ピートモスで、深さは1m。下から、基盤+砂利(ゴロ石をふくむ)+山砂50cmぐらい+川砂とピートモスの混合30cmぐらいです。おかげで、排水で苦労はないが、肥料の流失が心配。USGA方式の床土構造でも、1mはありません。但し、φ100ミリの排水管はあります。深ければ良いわけではないのです。これは6年前当時無知だった私は、コーライグリーンをつくるために2週間かけて我武者羅に掘って土の入れ替えをしたのであります。パッティンググリーン以外は1ヶ月かけて深さ50cmを目標に、土の入れ替えを行いました。ツルハシが必要な土壌を・・・・・。おかげで私は、現在も腰痛もちです。トホホホ。あっそうそう!あまりの重労働に疲れ果てた私は、2日間だけシルバーさんに依頼しました。あんな重労働を押し付ける私は鬼?妻曰く、『シルバーさん大丈夫?倒れない?』ありがとうございました。あっ、それで2年前にコウライをせっせとはがし、山砂を30cmほど取り除き、代わりに川砂+ピートモスをいれて美しいペンクロスを張ったのです。床土は非常に重要であり、これがダメだと、いくら肥料、芝刈り、化学的防除、日照時間(冬場の日照時間が重要)、風通し、など等諸条件がそろっていても、成功しないと思います。たぶん、今のところはこの床土構造で大丈夫だと・・・・・・。
2.10月~2月までの私の管理『考察』
皆さんも御承知のように夏越を成功させる条件のひとつとして、来年春までに根の成長を最大限に達成させることが重要です。今年5月上旬に、ソイルテスターで床土を抜き取り、砂を丁寧に水洗いして根の長さを測ったら20cmぐらいありました。しかし8月中旬では、なんと5~7cmほどになっていました。『こんなに退化するのかー・・・』。では、根の成長を最大に達成するためにどのようなことに気を遣っているか具体的にお話します。
まず、地下5cmぐらいの温度を11月上旬から3月下旬ごろまで1~2週間おきに測定する。この時期は、地上部の成長は鈍いですが根の成長がいちじるしいためです。地温5℃位までは肥料を吸収して養分を蓄えるらしい。一般にベントグラスの根の成長は、地温10~16℃で最大であり、25℃以上で新根の発生は止まり、急速に老化萎縮します。当然肥料はリンが多いほうがいいでしょう。多いと言っても年間チッソ量の、3分の1ぐらい。液肥、鉄剤(商品名 アエロナイト)なども併用する。鉄剤は夏場の色だしが本来の目的です。また、9月もしくは10月の更新作業時の土壌は、夏の抗菌スペクトルの大きい殺菌剤によって著しく有用微生物が少ない状態になっていると考えられる。そのため、この時期に有用微生物の投入を行い、バクテリアの活性を高めてあげる必要があると思います。具体的には市販されているグリーン用コンポストの投入です。これにより、枯れた根の分解やサッチの分解が促進されると思う。あとは、芝刈り、芝刈り。あっ!月に一度は、pHの測定もおこなっています。(ホームセンターで買った酸度計を使用)これは、いろんな資材(アエロナイト、肥料 など)を使用するために酸性に傾きやすいためです。ちなみにアエロナイトのpHは、3ぐらいです。
3.3月~9月までの私の管理『考察』
いよいよこれからが勝負の分かれ道。気を引き締めていきましょう。私は3月の中旬に2回目の更新作業を行います。少し早い気もしますが、近くのゴルフ場もちょうどこの時期なので・・・。この時点の作業も秋と大差ありませんが、コンポストの投入だけは行いません。もちろんpHや温度の測定、根の成長も調べます。そして1回目の殺菌剤と殺虫剤の散布を行います。もちろん予防散布です。この時期の殺虫剤の目的は、スズキリヨトウに対しては成虫および卵期の薬剤散布では効果がないので、幼虫期に防除するためです。また殺菌剤は、葉枯病およびダラースポット病防除のためです。殺菌剤については後ほど簡単にお話するとして、通常管理は、那須ナーセリー様よりご指導、ご教示いただいているとおりであり、月ごとに必要な管理を忠実に実行するようにしております。以下に、私なりに注意している細かい事項についてお話します。
●コアリング(エアレーション)について
私もホームセンターで購入した安価な足踏み式のものを使用しています。ただ、トコロテン式にコアがとれるものと、いわゆるローンスパイク(15本のフォークがついている)とよばれるものを使用します。コアリングは春と秋の更新作業時に使用し、ローンスパイクは初夏及び真夏に使用しています。この時、目土はせず穴をあけたままにして酸素を床土に供給しやすくしています。両者とも10cm程度の深さしかあけられず、ルートゾーン30cmまでの深さがあけられるものはなく、自作してしまおうかとも考えています。また、病変部または病変の疑いのある部分のコアリングは、健全部を終了してからにしています。芝刈りも同様です。病原菌を撒き散らさないための私のささやかな抵抗です。また、上記以外の芝生管理の道具(目土用ほうき、グルーミング用ナイロンブラシ、など等)も時々殺菌するようにしています。
●化学防除(殺菌剤)について
現在、わたしは、18種類もの殺菌剤を所有してしまっています。当然これほど必要なわけではありません。ゴルフ場ですら3~4種類ではないでしょうか?これは、2000年の秋に、まだ殺菌剤について整理できていなかった私は、系統別区分け(ベンゾイミダゾール、ジカルボキシイミド、EBI、グアザチン、アシルアラニン)から主要病害をすべて網羅できて、しかも薬剤ローテーションできるようにそれぞれ選択した結果なのです。ちょっとやり過ぎ。重要なのは、現在使用している薬剤がどの病害に効果があるのか?薬効は何週間何ヶ月か?卓効性か?予防薬か?治療薬か?特定のバクテリアにしか効果がない選択性殺菌剤か?混合殺菌剤か?など等自分なりに整理しておく必要があると思います。また耐性菌対策としてローテーションをおこなう上で、どのような組み合わせが実際考えられるのかをピックアップしておく必要があるとおもいます。例)ピシウム病 <シバクリン>・<アリエッティー +ターサンSP>・<プレビクールN> など。
あと、去年(2001年)の夏と今年の夏とでの一番の違いは、新規大型剤のヘリテージ顆粒水和剤(アゾキシストロピン47%)を取り入れたことです。これはゴルフ場でも使用頻度の高い農薬です。去年は農業用のアミスター20フラアブル250ml(アゾキシストロピン20%)をヘリテージの代用として使用していました。どちらもかなり効果が高いようにおもわれます。
●目土について
当然皆さんもご存知のとおりです。ただ、ブラシなどで目土をすり込むときどのようにしていますか?わたしはグリーン外周部だけは、とくに気をつけています。これは、外周部だけは、モアの進入などで擦り切れていたみやすく病害菌の侵入をうけやすいのでかなり丁寧にやります。また、ブラシやほうきですり込むときにやさしくやらないと、芝草に傷をつけるのでやはり上記と同じことがおこるとおもいます。実は、5月ごろゴルフに出かけたときに、偶然目土作業をしていた若いキーパーさんを見かけたのですがそれはもう油絵を描くかのように非常に丁寧にグリーン外周部(カラーの部分)をやっていました。ゴルフ場では、グリーン全体を管理器機でおこなっています。
●散水について
これは非常に難しいですよね、特に夏場の散水は。夏で毎日散水が必要な時期はとくに大変です。グリーンへの散水はスプリンクラーとタイマーのおかげで労力の省力化になりますが、ミスト散水が問題です。ゴルフ場のように風通しがいいならともかく、家庭の庭でゴルフ場のような風通しはのぞみにくい。風通しが良いようにおもわれても、芝生表面は風が流れていないことがあります。このような猛暑のときは、グリーン外の樹木やアプローチの石畳にも散水して温度を下げて風を通しやすくしています。これは唯一妻の仕事で、仕事場から電話で指示をだします。またこのような日は、扇風機の出番です。2台の家庭用扇風機をアプローチに設置してブーンとやりながら、グリーン外に散水します。これも妻の役目であります。毎年ご苦労様。
4.最後に(2年の夏越し経験から得たもの、芝生愛好家の立場から感じたことについて)
以上、長々と私の芝生管理の紹介をしてまいりましたが少しでも皆様のご参考になれば幸いです。夏越しに失敗された方々!是非もう一度挑戦してみて下さい。たった2年足らずの経験で申し訳ありませんが、非常に重要に感じていることについてお話いたします。芝生に病害、虫害を発生させるバクテリアや、害虫はそれぞれ平衡関係を保ちながら生活しているらしいということです。
葉腐病ばかりに気をとられているとピシウム病が発生しやすいのです。つまり、葉腐病のバクテリアはピシウム病のバクテリアを牽制しているのではないでしょうか?これは学術的に正しいかどうかはわかりませんが・・・・・。害虫も芝生が病気に侵されると食べやすくなるのか被害が広がりやすいようです。病害と虫害のダブルパンチでは手がつけられないと思います。また、病気が発生するまでにはそれなりのバクテリアの蓄積が必要であり過剰な殺菌剤の散布は慎むべきだと実感しています。
最後に、われわれ芝生愛好家にとって農薬にしろ資材にしろ、まだまだゴルフ場や大規模施設用が中心で、メーカーも芝生関連業者もわれわれ家庭園芸家にはちょっと冷たい気がします。しかし、そんな中でも那須ナーセリー様の親身な対応には家庭園芸家にとって本当に心強い存在であります。今後ともご指導、ご教示のほどよろしくお願い致します。
●参考書籍(私の愛読書)
1. ベントグラス
2. ニューベントグラス
3. 芝生の造成と管理(落合 正先生も執筆されています)
4. 総合防除戦略
5. 芝生の病虫害と雑草
6. NHK趣味の園芸:芝生(シバ)
7. NHK趣味の園芸:芝生を楽しむマイガーデン
8. 芝庭の手入れ
9. 芝生の庭とアウトテリア